第3章 死神と藤襲山
杏寿郎に「脱げ」と言われた。心臓が跳ねたが、怪我の有無の確認だと言われたら納得した。
袴は脱いだが上半身は流石に恥ずかしい。後ろを向いて長着を脱いだ。
私は常にサラシを巻いて過ごしている。鍛錬はもちろん刀を振る時胸が邪魔だからだ。
下履きについては現世の下着が一番履き心地が良かったので愛用していた。いわゆるパンティだ。言っておくが自分で買ったわけじゃない。10番隊の副官が勝手に買ってきて勝手に置いていったのだ。追い剥ぎのように服を脱がされ付けさせられたのはもう遠い昔のようだ。
この時代はまだこのような下着はない。洋装ならズローズや半股引きと言った密着性のないゆったりとしたもの。和装には腰巻き。
柊が履いているレースのしかも藍色の下着はどこにもない。
替えがないので今呉服屋で似たようなものを作ってくれるように注文している。そろそろできただろうか。なんて考えがよぎる。
長く背中まで垂らしている白い髪を手に取った杏寿郎は片側に寄せ前に流す。
そして肩に手を触れる。ゆっくりと肌を確認しながら。
「リーン、、触れるぞ、、、。」
そのまま肩から二の腕、肘、腕と杏寿郎の手が落ちていく。指先が土で茶色く汚れている。
「これは?」杏寿郎が問いかける。尋問みたいだ。
「駆けつけたが、もう事切れていた子どもたちをその場で埋葬した。手で土を掘ったから汚れてしまった。」
「そうか。リーンらしいな。」
顔は見えないが優しい声色で柊は安心する。
腕の確認が終わると杏寿郎の手は背中に戻ってきた。
背中にはサラシで隠れているがわずかにはみ出た古傷を見つける。
「これはなんだ?」先ほどとは打って変わって怒りが滲み出ている声に。
「それは多分生前の傷跡だ。燃える木の棒で叩かれたことがある。火傷の跡だ」
簡単に説明するが杏寿郎は無言だ。いつも元気でにこやかな杏寿郎が無言で怒ると怖いな。そう思っているとサラシの隙間に指をかけぐいっと下にずらす。
ーーーちゅーーー
杏寿郎の唇がその古傷に触れる。
「ん……、あ…、杏、、寿郎、、?」
「そのままだ。リーン。」
溌剌としたいつもの杏寿郎はどこにいったのか、男らしく低い有無を言わさない声。心臓の音が激しく脈打つ。杏寿郎にも聞こえるのではないかと気が気じゃない。