第19章 死神と新年
一緒に湯船から出て体を拭くと着物に袖を通す。
「柊、着替えの服は?」
「あ、持ってくる前に風呂に来てしまったな。」
「冷える前に俺が取ってこよう。」
杏寿郎が柊の部屋の前に行くと父が声をかける。
「おい、柊の部屋に何の用だ?」
「あ、父上。いえ、まぁ、ちょっと、、」
「まさか…姫始でもするつもりじゃないだろうな?」
槙寿郎は杏寿郎を睨みつける。
「ひめ…はじめ…?」
杏寿郎の頭の中でその言葉がぐるぐると回る。
(ひめはじめ?飛馬始め?姫糊始め?姫始めかっ!!)
「なっ!!違います!父上!!そのような事はっ!!」
理解した瞬間顔を真っ赤にしてブンブンと頭を横に振り否定する。
「そもそも俺と柊は…。」
ゴニョゴニョと言い訳するが
「お前たちの事を知らないと思っていたのか?俺は耳がいいんだ。筒抜けだ。千寿郎には気付かれないように気をつけろ。」
「う…。気をつけます。ですが今は本当に違いますからね!柊が着替えを用意せずに風呂に行ったので代わりに取りに来ただけです…。」
「なんだ。そんな事か。…まて、お前一緒に入ったのか?」
杏寿郎はしまった!と顔を歪めると
「あ、えー柊が冷える前に急がないと!失礼します!!」
慌てて柊の部屋に入り込み着替えの着物を手に取ると柊が待つ風呂場へと急ぐ。
(まさか父上が知っていたとは!耳がいい?まさか聞こえて…?確かに柱まで上り詰めた方だ。耳も目も鼻も常人よりは良いはず。よもやよもや。)
風呂場に戻ると柊に着物を渡す。
「ありがとう。杏寿郎。」
柊はすぐに着物に袖を通しやっと落ち着く。
その様子をじーっと柊を見つめる杏寿郎。
「ん?どうかしたか?」
ふんわりと笑う柊。
「ん゛っ。いや、可愛いなと…思って…。」
「なっ?!何だ急に?!」
急な口説き文句に顔を赤くする。
「柊…。」
杏寿郎は柊の頬に手を添える。
ゆっくりと杏寿郎が柊の顔に近づき、もう少しで重なるところで
「兄上ー?お雑煮できてますよー?」
千寿郎の呼びかけに我に帰る杏寿郎。