第18章 死神と豪華客船
「ふーん。煉獄家のご長男かぁ。柊さんとどういう関係?婚約者?」
「まさか、私なんかが煉獄家に嫁入りするなんて恐れ多いですわ。私は彼の従姉妹ですの。お仕事がお忙しくて女性の影が全くないというので近い年齢の私に声がかかっただけですわ。」
これも事前に打ち合わせした内容だ。変に婚約者とすれば祝言などで変に注目を集めてしまうし、何よりこの世界に戸籍がない柊は煉獄家の嫁候補として調べられると困るため、瑠火殿の家系の親戚として話を合わせている。
「へぇ、じゃあ僕が君の恋人候補に、立候補してもいいかな?」
「…。私、煉獄槙寿朗様のことを大変尊敬しておりまして…。それに随分可愛がってもらっていますの。お付き合いするなら彼より強い殿方をと思っております。あなたは槙寿朗様よりお強いですか?」
「え?あー、そう、、あー、僕はどっちかというと頭脳派だから…。」
こういう時名を馳せた槙寿朗の名前を出すと便利だ。
「槙寿朗様は将棋もチェスもとてもお強いんですよ?武道はもちろん戦略家としてもとても尊敬できます。貴方は?将棋はお出来になって?良かったら一戦いかが?私、槙寿朗様から筋が良いとお褒めいただいたこともあるんです。」
にっこりと笑うと彼は目を泳がせて困った顔をする。
「いや、あ、辞めとくよ。ご、ごめん、僕用事思い出したから…。」
そう言ってボックス席から離れていく。
「ふん。レディを置いてそそくさと逃げるなど小物風情が。」
グラスの果実水をぐいっと飲むとふとパーティ会場から出て行こうとする女性の姿が目に入る。
フラフラと足取りが悪く後ろ姿で顔は見えないが様子がおかしい。それにその扉はバックヤード。船の関係者専用の通用口だ。
柊は彼女の後を追うようにして扉に向かう。
扉の向こうは煌びやかな会場とは違い、無機質で配管などが剥き出しの薄暗い通路になっていた。おそらく船の要となる船長室やボイラー室などに通じる道だろう。
女性は下の階段へとフラフラと降りているところだ。
「お嬢さん、どこへいくのですか?大丈夫ですか?」
声をかけるが反応がない。
柊は女性に追いつき、肩に手をかけ顔を覗き込む。
すると彼女の顔は青白く目は虚。すぐに鬼の仕業だと理解する。
だが彼女は柊の手を払いのけまたフラフラと歩き出す。