第18章 死神と豪華客船
船に乗り込むとそこは煌びやかな豪華客船だった。
明治に入ってから日本はクルーズ旅行が一種のステータスとなり海外旅行が大流行していたのだ。日本の客船のレベルは世界でも通用するほどに急成長していた。
杏寿郎も柊も顔には出さないが、規模の大きさに圧巻している。
そこに1人の男性が杏寿郎に声をかける。
「おお!君は煉獄家のご長男だね!大きくなった!お父様はお元気ですか?いやぁ、昔お世話になってねぇ。」
昔の槙寿朗を知っているのか髪色がそっくりですぐにわかったよと言って挨拶をいただいた。
「はい。まだまだ元気です。最近は道場を開放して剣を教えているほどです。」
「そうかそうか。しばらく夜会や会合にも顔を見せなくなったから心配していたんだよ。道場が忙しいんだね。また顔を見に屋敷へ伺うよ。よろしく伝えておいてくれ。」
軽く挨拶を交わすとその男性は他の人への挨拶へと離れていった。
「…。」何やら考え事をしている杏寿郎に柊が声をかける。
「杏寿郎…さん?いかがされました?」
「いや、…今みたいに、時折昔の父を知っているという方と何度か話をしたことがあるんだが…。酒に溺れ伏せている。なんて言えるはずもなく、昔の面影を頼りに俺はいつもありもしない父の幻影を語っていたのだ…。だが…もうそんな嘘を言う必要はないのだなと思って。今日話した父の話は紛れもない事実で…誇らしい立派な煉獄槙寿朗という男の話ができた。それが…すごく嬉しいんだ。」
杏寿郎は泣きそうな、だが笑顔で語る。
「…そうだな。もう杏寿郎が心配する事はないだろう…。」
柊はそっと杏寿郎の手を握り柔らかい笑顔を見せる。
「全て柊のおかげだ。君は煉獄家の光だよ。」
「大袈裟だ。私は何もしていない。私がいなくとも槙寿朗は立ち上がっていたさ。」
「こちらウェルカムドリンクでございます。」
そう言ってウェイターが果実酒を運んできた。
「っ!!あ、ありがとう…。」
柊がグラスを受け取るとウェイターに扮した天元が小さな声で囁く。
(言葉遣い…。戻ってるぜ。)
(すまない。気をつける…。)
天元が用意したアルコール抜きの果実酒に口をつけると杏寿郎と共に他の参加者へ挨拶を交わしに会場の奥へと進んでいく。