第14章 死神と憂鬱
煉獄家は母屋と離れ、道場の三つの建物がある。
外観こそ古いが母屋は設備は新しく、台所や風呂もガスが通っており、厠もこの時代では珍しい水洗トイレだ。
一方離れの方は弟子はもちろん女中、下男が使用する目的で建てられたもので、ここ数十年使用する事は無かったため、設備も古いまま。ガスは通っていないので風呂も台所も火を起こす手間があった。
その手間を省くため初めは食事も風呂も母屋のものを使うようにと自由に開放していたのだ。
そして柊の部屋の扉には『立ち入り禁止』の張り紙をし、隊士たちにも直接念を押していた。
だが人間の心理とは不思議なもので、『絶対してはいけない』と言われれば言われるほどしたくなるもので、いつしか隊士たちの中で度胸試しのようにあの部屋を開けるのはだれだ?になっていったようだ。
そしてその中の2人ほど、悪知恵と勘が働く者がいた。2人は最近噂の『雪白姫』と炎柱を蝶屋敷で見かけた話、時たま次男が話す『柊さん』と言う名前、『帰ってきたら』、『修行は順調』『組紐を渡せた』など、色々な単語がつながり、あの部屋は雪白姫の部屋だと答えにたどり着いたらしい。
むさ苦しい男だらけの中で女性の、しかもかなりの美人だと噂。考える事など下衆いた事だ。
2人は昼間、隊士が少なく、煉獄家3人が留守になった時を見計らい立ち入り禁止の張り紙がある柊の部屋へと忍び込んだのだ。
時間にするとわずかだった。だが、そのわずかな時間でできる事もある。
1人は押入れにある布団を取り出し、潜り込むと噂の雪白姫を思い浮かべ自慰にふける。
1人は箪笥から下着を取り出す。初めて見るデザインだったが、本能でこれが下履きだと当て匂いを嗅ぎながらこちらも自慰にいそしむ。
手土産に持ち帰ろうと柊の下着を懐に仕舞い、部屋を出たところで帰宅した千寿郎、そしてその奥には元炎柱と鉢合わせてしまったのだ。
その後はもちろん想像通り、槙寿朗の怒りの鉄槌。更には真剣で脅し、懐を切った際に穢され嫌な水気を含んだ柊の下着がボトリと落ち、さらに怒りでとち狂う槙寿朗を千寿郎や他の隊士たちで必死に止め、なんとかその日は乗り越えた。
だが槙寿朗はその2人を許す事はできず、除隊処分を御館様に直接求め、除隊させなければ俺が斬り殺すと本気だったようだ。