第13章 (短編)雪白姫の噂
隠A「なぁ後藤、さっきのあの隊士の子と何話してたんだ?」
後藤「あぁ、強ぇなぁって話。あと、待機命令無視して来たみたいだから怒られるぞー。って。」
隠B「ってかすげえ美人だったよな!」
隠A「わかる!でも今まで見た事ないんだよなぁ。」
後藤「…生き残った隊士と同期だって言ってたな。」
隠C「ってことは今年の選抜試験合格者?新人じゃねぇかよ!」
隠B「新人であの強さ…。すげぇのが入って来たな。なぁ後藤!名前は?名前聞いたか?」
後藤は一瞬考えると「いや、聞いてねえわ。」と答える。
何故嘘をついてしまったのか自分でもよくわからない。ただ、彼女の亡くなった隊士たちに見せる弔いの眼差しが忘れずにいた。
そして彼女を美人だと囃し立てる彼らに彼女の名前を明かすことがなんとなく癪に触り、嘘をついてしまう。
あの強さだ。その内すぐにでも名前は広まるだろう。
隠A「髪も肌も真っ白でどっかの国のお姫様みたいだったなぁ。」
隠B「あぁ…。あんな美人の担当隠になりたいなぁ。」
隠C「姫かぁ…。そういえば妹がそんな童話の話持ってたな。確か…雪…姫?違う。」
後藤「雪白姫か?」
隠C「それだっ!!」
後藤は口を挟んだことに後悔した。余計なことを言ってしまったと。
だが、後藤の憂いは気に留めず、3人は柊の事を『雪白姫』だと騒ぎ立てる。
「儚げに死んだ隊士を見つめる目が美しい。」だとか、
「待機命令を無視してまで駆けつけた彼女の勇気に感服した。」などを話している。
直接話した後藤からすると彼女の印象は全く的外れだ。
彼女は人を守ることはあっても守られるような『お姫様』なんてもんじゃない。
口調も凛々しく姫より武士だった。
後藤はキャッキャっと騒ぐ3人を置いて焼き払いの準備を始める。上からの許可が降りたようだ。
「おぉーい。始めんぞー。」
そうして一つの集落が地図からまた消えた。