第13章 (短編)雪白姫の噂
柊の挑発に鬼はピクピクと青筋を立てる。
「…そんなに耳も目も塞ぎたかったらそうしてやるよぉ!!血鬼術!虚無暗黒!」
鬼の口から白い霧が吹き出し、一瞬にして辺りを包み込む。
そして柊は視覚と聴覚を奪われた。
「どうだぁ?真っ暗な恐怖は。どの鬼狩りも威勢がいいのは最初だけ、次第にガタガタ震えて闇雲に暴れるだけでどうってことねえ!あぁもう俺の声も聞こえちゃいねぇか!いひひひひっ!」
柊は暗闇の中、ふむふむと考えていた。
視覚を遮断する訓練は受けたことがあったが聴覚まで遮断するのはやはり難易度が高いな。だが、匂いや空気の振動、足の裏の感覚。空間を把握すればなんてことないな。
「おそらく貴様は今私を嘲笑っているのだろう?鬼狩りなど大したことはない、恐怖に怯えどこから喰おうかと。だが私は言っただろ、私には効かぬと。」
柊の言葉に鬼はピタリと笑うのをやめる。
「あぁん?何を言うかと思えば。大口叩いても無駄だぜぇ!!」
そう言って鬼が柊腹めがけて鋭い爪を振りかざす。
だが柊はそれを寸前のところで躱し、さらにはその腕を刀で斬り落とす。
「ぎいいぃぃっっ!!」
腕を斬り落とされた鬼は驚き後ろに下がる。
ニョキっと腕が元に戻ると息を整える。
「ど、どうせマグレだ!そうに決まってる!」
「心拍数が上がったな。腕を斬られて焦ったか?…今度は私から行くぞ!」
そう言って柊が鬼に向かって斬り込んでいく。
「水の呼吸参ノ型、流流舞い!」
的確に急所を狙ってくる柊に鬼は驚きを隠せない、そしてそれ以上に恐怖していた。
かろうじて頸から外れた攻撃に慄き鬼は逃げ腰になる。
(ここじゃだめだ!狭い場所は!外だ!山に逃げ込めば…広い場所に行かないと!)
柊に恐怖した鬼は障子を突き破り、外へと飛び出す。
「…逃げるとは浅はかだな。」
柊は鬼の後を追いかける。
鬼は影が刺す山の中へと逃げ込んだ。
さすがのあの鬼狩りもここまでは辿り着けまい。
そうたかを括り、この集落は捨て次の狩場でも探そうと一歩踏み出すとーーザシュっーー
肩から袈裟斬りにされ、斜めに体が真っ二つになった。
「む、少しズレたか?やはり目が見えぬと頸を狙うのは難しい。」