第13章 (短編)雪白姫の噂
視界を奪われるだけでも恐怖なのに聴覚もないとなれば平衡感覚や精神的苦痛は相当なものだろう。
更にそれが鬼がいつ現れるかわからない場所。
匂いや空気の僅かな振動で目の前に何かがいる。だがそれが鬼かどうかわからない。そう思うと闇雲に刀を振ってしまうのは仕方がない事だろう。
家屋がやたらと損傷していた理由がわかった。
「縛道の四、這縄」
暴れる彼を拘束するにはこれが一番だ。
手足が縛られて、動けなくなった彼の手を握る。
目も耳もわからないが、その温もりが人間だとわかると彼は落ち着いたようだ。
こちらの声は聞こえないためポンポンと背中を叩き、抱きしめると藤の花の匂い袋を渡してもう一度押し入れに隠れているように促す。
「視覚と聴覚、両方を奪うとは厄介だな。」
先ほどの彼は仲間に切られてはいるものの、彼自身は誰も傷つけていない。その証拠に刀に血は一滴も付いていなかった。
他にも生存者がいる可能性に賭けて柊は順番に家の中に入っていく。
家の中はどこも同じように荒らされ血が至る所に飛び散っていた。
(ここが最後だ。)
一番大きな家でおそらくこの集落の村長宅だろう。
だが、血の匂いも一番濃い。
半壊した扉を開けると一層充満した血の匂いが柊の鼻を刺激する。
奥の部屋へと進むとクチャクチャと耳障りのする音を立て鬼が肉の塊を喰っていた。
「貴様がこの集落に棲みつく鬼だな。」
柊の存在に気づいた鬼はニタァと薄気味悪い笑みを浮かべ
「いひひ。鬼狩りだぁ。性懲りも無くまたきたぁ。それも極上の、若い女ぁ。」
柊は鬼に注意を向けつつ部屋の様子を伺う。
集落の人だろう姿や隊服を着た遺体が横たわっているのが見える。
かろうじて息をしている隊士も中にはいるが、あの傷だと助かる見込みは低いだろう。
「貴様の術は視覚、聴覚を奪う。ただそれだけだ。私には効かぬ。その頸斬り落とさせてもらう!」
柊が刀を構えると鬼は更に笑う。
「いひひひひっ!俺の術を理解したつもりかぁ?わかっててもなぁ、人間は真っ暗闇で音も聞こえない空間だと精神が狂っちまうんだよなあ。鬼狩り同士斬り合ってる姿を見てるのは愉快だったぜぇ。」
「私は今不愉快だ。貴様の臭い笑い声が耳に触る。ついでに醜い姿は見るに耐えないな。」