第12章 (短編)ある日の話(槙寿朗)※
槙寿朗side
何故こんなことになったのか、平常心を装っているが槙寿朗の心の中は焦りと高揚感が入り混じり、複雑な心境だった。
柊が来てからというもの酒を辞め、千寿郎が作る健康的な食事を取るようになった。
特に変わったのは女関係だ。瑠火が死に、鬼殺隊を辞めた後は酒浸りになり居酒屋で出会った女と適当に一夜を過ごすこともしばしば。
そんな生活を続けていたが彼女が来てからそういうこともしなくなった。更には隊士が昼夜問わず屋敷を出入りする事も多いので1人で慰める事もできないでいた。
更には杏寿郎と柊の関係だ。2人は正式に恋仲になったとは聞いてないが、どう見ても2人はそういう関係で、イチャイチャとする分には構わないが何度か体も重ねている。千寿郎がいる時はやめろといえば学校に行ってる間の昼間から始めたのは流石に驚いた。まぁ鬼殺隊という特殊な仕事柄、夜は忙しいのでわからんではないが、、俺がいるんだという事も忘れないでほしい。
あの時ほど炎柱として培った五感の鋭さを呪った。
柊は確かにイイ女だ。普段は凛とした澄ました表情だが、笑うと花のように可愛らしい。気を許した相手には甘えるようで猫のようだと思っている。最初の頃に比べると随分表情豊かになったと思う。自分を甘やかす事なく、毎日鍛錬は欠かせないし、礼儀やマナー、立ち振る舞いも上品でまさに絵に描いたような女性。少し気の強いところなんかは瑠火によく似ている。
杏寿郎の女の趣味は俺に似たんだな。
トドメは彼女のあの声だ。壁越しに聞こえた杏寿郎に抱かれている時のあの声が脳に響くようだった。
『声を我慢しないと父上に聞こえるぞ』そう言って柊を抱く息子の裏の顔を垣間見た時は本当に驚いたし、その時の柊の声を聞き、遂に1人で慰めてしまったのは最近のことだ。
「槙寿朗?…まだ…?」
「っっ!(人の気も知らずにっ!)」
背中はそのままで、首だけをこちらを向け、恥ずかしさからか頬を赤く染め催促してくる柊に僅かに欲情の念が湧く。
その念を振り解くように槙寿朗は手荒く柊の背中に軟膏を塗りつける。