第9章 死神と愛
手渡された組紐を見て柊は
「これは?私に?」
「勿論だ。君は髪を結い上げているが髪紐に飾りがなかったからな。本当なら誕生日の当日に渡したかったんだが。」
「…誕生日?それは生まれた日の事か?」
「今日は7月5日だが、君の誕生日は七夕と聞いていたが、まさか…誕生日のお祝いをした事は…ないのか?」
衝撃の事実に言葉が詰まる
「何故祝うんだ?」
この疑問は本当に純粋に知らないのだろう。幼少期の話は聞いていた。祝い事をするような両親ではないだろうとは思っていたが、死神になった2度目の人生もなかったのか…。
だが死神の祖父も2000年生きたと言っていた。そもそもそこまでの人生を生きていくと誕生日という概念も薄いのかもしれない。
人の人生は短く尊い。だからこそその短い一生を懸命に大事にするのだ。
深呼吸をし、柊の目を見て優しく語る。
「年に一度、その人が生まれてきた尊い日だからな。毎年歳を重ねるだけではない。生まれてきてくれてありがとう。生きてくれてありがとう。今年も貴方にとって良い一年になりますように。言葉とともにその人のために贈り物を渡す。それはものでもいいし、思い出や、記念でもなんでもいい。心があればそれでいいんだ。」
「生まれてきて…生きてきて…」
「そうだ…柊。生まれてきてくれてありがとう。俺と出会ってくれてありがとう。」
「杏寿郎…。すごく…胸があったかいな…。杏寿郎はいつも…なんでそんなに温かいんだ…。」
貰った組紐を胸に当ててギュッと握り締める。
「着けてやろう。」
杏寿郎は組紐を手に取ると柊を後ろ向きに座らせる。
今結い上げているのはシンプルな黒のゴム紐で平成の現世から調達した物だ。
黒のゴム紐の上から組紐をくくりつける。
橙、黄、白の組紐は煉獄杏寿郎をイメージした色だ。その色を身につけている柊はまるで煉獄の女だ。手を出すなと言っているような物だ。
「うむ!似合っている!この紐を解くのは君、もしくは贈った俺だけだ。俺だけがこの紐を解く権利がある。覚えときなさい。」
背後から耳元で低く甘い声でそう言うと柊はビクッと肩を跳ねさせ、こくりと頷く。