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上書きしちゃった

第10章 囁きに溺れて


な「正直に言いますね。……タツヤさんと一緒にいるあなたを、見て……なんだか、ずっと落ち着かなくて。」

「……っ。」

その言葉は鋭く胸を抉る。

テレビ局を出たあのときキタニと交わした時間が、一瞬にして頭をよぎる。

な「だから……飲んでたら余計に、どうしようもなくなって。」

彼は少しうつむき、子どものように困った顔を見せる。

な「……気づいたら、ここに来てました。」

胸が苦しくなる。

なとりの真っ直ぐすぎる言葉が、酔いのフィルターを通して余計に本音に思えた。

「……ばか。」

小さく呟き、掴まれた手を握り返す。

その瞬間、なとりはまたふわりと笑い安堵したように肩の力を抜いた。

な「よかった……怒られなくて。」

部屋には夜の静けさが満ち、時計の秒針の音さえ鮮明に響く。

ただ2人が向かい合い、繋いだ手の温度が全てを語っていた。





なとりの指が、握り返した手からゆっくりと腕へと這い上がってくる。

視線を逸らそうとしても、酔いで潤んだ彼の瞳に引き寄せられてしまう。

な「……やっぱり。」

低く落とされた声が、耳のすぐ近くで響いた。

な「良いにおいがしますね。」

不意に首筋に顔を寄せられ、息が掛かる。

熱を帯びた吐息が頬を撫でるたび、背筋がぞくりと震える。

その言葉に頬が一気に熱くなり、呼吸が乱れていく。

「……なとり、酔ってるから……。」

弱々しく制そうとするが、返ってきたのは甘い囁き。

な「酔ってても……僕の気持ちは本当ですよ。」

言葉の最後だけ敬語が滲む。

それが妙に真剣さを帯びて、胸を強く締めつけた。

彼の唇が首筋をかすめ、肌を軽く啄ばむ。

「……んっ。」

抑えきれず声が零れる。

なとりはその反応を確かめるように顔を上げ、蕩けた笑みを浮かべた。

な「……可愛い声ですね。」

ソファの背もたれに押し倒される形になる。

すぐそばにある彼の顔、熱のこもった瞳に捕らえられ逃げ場はなかった。

な「……触れても良いですか?」

わざとらしい問いかけのようでいて、返答を待たずに唇が重なった。
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