第27章 また3人で
時間は前にしか進まない。
それでも、3人の間には確かに“戻れない過去”と“繋ぎ直した現在”が同時に存在していた。
笑い合える。
語り合える。
けれど、それ以上踏み込む勇気も許される確信もなかった。
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季節が移り変わり、また3人で飲んだある夜。
店を出て別れ際、女はふと心の中で問いかけた。
――これは幸せなんだろうか。
もう傷つけ合わない距離で、穏やかに笑い合える。
けれど、それは“失ったもの”を抱えたままの幸せだった。
かつての熱や衝動は、もう戻らない。
けれど、こうして再び隣にいられること自体が奇跡のように思えた。
な「また、3人で飲みましょう。」
なとりの言葉に、女は笑顔で頷く。
タ「……ああ。」
キタニも短く答えた。
夜の街に3人の影が伸びては、やがてそれぞれの方向へと分かれていった。
過去も未来も曖昧なまま。
それでも再び交わった現在を、手放したくはなかった。
――これがきっと、3人にとっての“幸せ”の形なのだろう。
そう信じながらも心のどこかで別の答えを探してしまう自分に気づき、女は小さく目を閉じた。
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その夜、眠りにつく前にふと思った。
もしもあの時、別の選択をしていたら。
もしも、もっと素直に心を差し出せていたら。
――きっと違う未来もあったのだろう。
けれど、今ある未来を選んだのは他でもない自分たちだ。
幸せと未練の境界線で揺れる心を抱えたまま、女は静かに瞼を閉じた。
夜はただ静かに、更けていった。
𝑒𝑛𝑑