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上書きしちゃった

第10章 囁きに溺れて


タ「そうだね。でも、気にしてない。」

「……無責任。」

タ「無責任かな。……会いたいと思ったら、待つでしょ。」

言葉が出なかった。

心の奥を簡単に見透かされるようで、視線を合わせるのが怖い。

キタニは近づき、彼女の帽子のつばを指で軽く持ち上げた。

タ「顔、赤い。」

「照明のせい。」

タ「いや、違う。」

「……。」

わずかな沈黙。

夜の静けさに混じって、彼女の心臓の鼓動だけが大きく響いている気がした。

タ「送ってく。」

「えっ。」

タ「タクシー捕まえる。……一緒に帰ろう。」

それが命令のようでいて、どこか優しい響きを持っていた。

彼はさっさと歩き出し、道路の方へ向かう。

女は慌てて追いかけながら、口を尖らせた。

「……本当に勝手。」

タ「そう?」

「そう。番組でも、余裕そうにしてて……。」

タ「余裕なかったよ。」

「え?」

キタニは立ち止まり、こちらを振り返る。

街灯に照らされた横顔は真剣で、舞台上の彼とは違う影を帯びていた。

タ「かやの隣に立つの、思ったより緊張した。……でも、楽しかった。」

胸がぎゅっと締めつけられる。

舞台の上では冷静で落ち着いて見えた彼も内心は揺れていたのだと知り、思わず足が止まった。

その間にも彼はタクシーを止め、ドアを開けて手で促す。

タ「ほら。」

「……。」

迷いながらも、女は車内に乗り込む。

続いてキタニが隣に座り、ドアが閉まると車内は2人だけの静けさに包まれた。

窓の外を街の灯りが流れていく。

狭い空間に漂う沈黙は、妙に落ち着かなくて胸の奥をざわつかせる。

「今日はありがとう。」

女は小さな声で切り出した。
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