第10章 囁きに溺れて
驚きと戸惑いで声が震える。
タ「先に帰ったと思った?」
キタニは口角をわずかに上げ、ゆっくり歩み寄ってきた。
「……うん。番組終わったらすぐにいなくなったから。」
タ「帰るわけないでしょ。かやが出てくるの、待ってたんだから。」
さらりと告げられた言葉に、胸が一気に熱を帯びる。
夜風の冷たさもかき消すほどに、体の奥から熱が広がった。
「……どうして。」
タ「理由いる?」
「……っ。」
彼の目は冗談めいていない。
ただ真っ直ぐにこちらを見つめ、当たり前のことを言ったかのように静かだった。
女は視線を逸らし、肩をすくめる。
「待ってたって……ファンに見られたら大変でしょ。」