第9章 拒めない衝動
隣の司会者が
M「知ってました?」
と茶化すと、女は首を横に振りながら視線を泳がせる。
キタニはゆっくりと歩み寄り、少し照れくさそうに笑ってみせた。
タ「どうも、サプライズで呼んでもらいました。よろしくお願いします。」
低く落ち着いた声がマイクに響くと、さらに歓声が上がる。
観客の中には驚きと喜びで立ち上がる者もいた。
女は胸がいっぱいになりながら、思わず口を開いた。
「……なんで、ここに……?」
キタニは彼女を見つめて、わずかに口元を緩める。
タ「かやが出るって聞いたから……友情出演っていう名目で、来させてもらいました。」
淡々とした言葉なのに、その瞳の奥に隠された親密さが女の心を揺らす。
司会者は
M「お2人仲良しですもんね〜。」
と笑いながら観客に振る。
観客席からは
客「キャーッ!」
という歓声や
客2「お似合い!」
という声が飛んだ。
女はどう答えていいか分からず、頬を赤らめて視線を落とす。
そんな彼女を見て、キタニは余裕のある笑みを浮かべた。
タ「今日は……ただ、応援に来たんです。驚かせてしまったなら、ごめんなさい。」
その言葉に会場からは
客「優しい!」
という声が飛び、また笑いと拍手が起きる。
司会者はその空気を逃さず
M「せっかくですから、ここで少しお2人に話を聞きましょう!」
と2人を並ばせた。
女は落ち着かない様子で椅子を少し引き、キタニと距離を取ろうとする。
だが彼は自然に1歩近づき、その肩に軽く手を置いた。
タ「緊張してる?」
耳元にだけ届くような声で囁かれ、女は心臓が跳ねるのを感じた。
「ちょっと……。」
と小さな声で答えると、キタニは笑みを隠さず
タ「大丈夫。」
と短く返す。
そのやり取りが観客には映らず、2人の間にだけ甘い空気が流れた。
司会者は興奮気味に
M「普段から連絡取ったりするんですか?」
と尋ねる。
女は答えに詰まりながらも
「はい、時々……。」
と小さな声で答える。