第8章 すれ違う吐息
なとりの腕の中で押し倒された形になったまま、女は戸惑いと熱に揺れていた。
息遣いが重なり合い、ただでさえ心臓が暴れているのに視線の先には真剣そのもののなとりの顔。
その時、ソファに斜めに腰をかけていたタツヤが缶をテーブルに乱暴に置いた。
タ「……おいおい。2人だけで盛り上がるの、ずりぃだろ。」
声には、これまでのような余裕めいた軽さがありながらも、どこか硬さが滲んでいた。
女は振り返り、驚いたようにタツヤを見た。
「タツヤ……?」
タ「俺の話で盛り上がってんのに、俺が蚊帳の外ってのは面白くねぇな。」
彼はゆっくりと立ち上がり、わざとゆったりした動作で近づいてくる。
だが、その眼差しの奥には余裕ではない焦りと嫉妬の色がかすかに揺れていた。
なとりが女を抱いたまま鋭く睨む。
な「……来ないでください。」
タ「来ないで、ねぇ。」
タツヤは挑発するように鼻で笑い、女のすぐ隣に腰を下ろした。
そのまま女の頬へと指を伸ばし、軽く顎を持ち上げる。
タ「大丈夫、すぐ終わるから。」
次の瞬間、彼の唇が女の唇を覆った。
「……っ!」
女の瞳が大きく見開かれる。
最初は驚きで体が固まったが深く食い込むようなキスに呼吸が奪われ、抗う力が溶かされていく。
タツヤの舌が容赦なく入り込み、息を乱しながらも女は次第に抵抗を失っていく。
目尻が熱に濡れ、表情がとろけるように緩んでいった。
「……っ……タツヤ……。」
かすかな声が漏れる。
なとりはその様子を見て、全身を強張らせた。
彼の胸を圧迫するのは、言葉にできない嫉妬と焦燥。
女が自分の腕の中にいながら、タツヤに唇を奪われ顔を蕩けさせている――
その光景が理性を一気に焼き尽くす。
な「……やめろって言ってるでしょ。」
低く唸るような声。
しかしタツヤは一切離れない。
逆にキスを深めるように女の頭を抱き寄せる。
な「くそっ……!」
なとりの拳がソファの肘掛けを叩いた。
な「俺の目の前で……そんな顔すんなよ。」
女の胸の奥でタツヤの強引さと、なとりの切実な熱が交錯する。
頭がぐらぐらと揺れ、身体の芯が熱で支配されていく。
タツヤは唇を離した。
糸を引くように濡れた口元が、艶めかしく光る。
そして女の頬を撫でながら、低く囁いた。