第8章 すれ違う吐息
な「こうやって……俺の上にいるの、悪くないでしょ?」
女の胸の奥で、理性と感情が入り乱れる。
その様子を横から眺めていたタツヤは唇の端を釣り上げ、愉快そうに笑った。
タ「はは、良いじゃん。なとり、お前の方が積極的じゃん。」
な「……黙っててください。」
なとりは鋭い視線を投げた。
な「これは俺とかやの問題です。」
女はそのまま押し倒した形で、動けなくなっていた。
心臓の鼓動が早鐘を打つように鳴り響き、呼吸が浅くなる。
なとりの瞳は真剣そのもので、冗談や軽口ではないことが痛いほど伝わってくる。
な「俺は、冗談でも茶化されたくないです。」
彼の声は低く震えていた。
な「……本当に欲しいのは、俺なんです。」
女の視界が熱で霞む。
彼の言葉の重さに、胸の奥が掴まれるように苦しい。
同時に、押し倒した状態の距離感が余計にその言葉を真実味のあるものにしていた。
「なとり……。」
震える声で名前を呼んだ瞬間、彼の腕がさらに強く彼女の背を引き寄せた。
密着した体温が絡み合い、互いの心臓の鼓動が響き合う。
タツヤは空になった缶をコトリとテーブルに置き、余裕の笑みを浮かべたまま2人を眺めていた。
タ「……なんだよ。見せつけてくれるなぁ。」
しかし、なとりは一切彼を見ず目の前の女だけを見据えていた。
その視線は真剣で、決して揺らぐことがない。
女は押し倒す形のまま、逃げ場のない熱を浴び続けた。
それは酔いの火照りとはまるで違う、心の奥底から燃え上がる感情だった。