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上書きしちゃった

第8章 すれ違う吐息


タ「そういえばさ。」

タツヤが缶を軽く振りながら、不意に口を開いた。

タ「前に2人で会ったとき――こいつ、酔って転んでさ。俺を押し倒したんだよな。」

「……っ!」

女は一瞬で顔を赤くした。

「ち、違うから! あれは本当に足がもつれただけで……!」

タ「はいはい。そういうことにしといてやるよ。」

タツヤは唇の端を吊り上げ、わざとらしく肩をすくめた。

その口調は軽い冗談のようでありながら、わずかに含みを持たせている。

なとりの目がわずかに細められる。

手にしていたグラスをテーブルに置くと、低い声で問いただした。

な「……本当?」

「ほ、本当だってば!」

女は慌てて身を乗り出す。

「タツヤが言ってるのは、ただの事故なの! 私、そんなつもりは全然――。」

タ「でもなぁ。」

タツヤがわざとらしく間延びした声を出した。

タ「見た目はどう見ても押し倒してる形だったけど?」

「タツヤ!」

女は声を荒げる。

「やめてよ! 誤解されるような言い方しないで!」

しかし、なとりの瞳には既に嫉妬の色が濃く宿っていた。

感情が抑えきれないように喉の奥で熱が渦巻き、口を突いて出る。

な「……じゃあ。」

彼は女をまっすぐ見据え、静かに言った。

な「俺にも……同じことしてよ。」

「えっ……?」

女は言葉を失う。

次の瞬間、なとりの手が伸び女の手首をしっかりと掴んだ。

力任せではない。

けれど、逃れられないほど確かな力。

な「ほら。」

低い声が耳元で囁かれる。

な「俺も押し倒してみて。」

「なとり……。」

女が戸惑いを見せる間もなく、彼は自分の方へと強く引き寄せた。

バランスを崩した女の身体が前のめりになり、そのままなとりをソファに押し倒す形になる。

どさり、とクッションが沈んだ。

女の両手は咄嗟に彼の胸の上へ置かれ、顔は至近距離で見つめ合う形。

熱い吐息が触れ合いそうな距離で混ざり合った。

「……っ!」

女は心臓が跳ね上がるのを感じた。

抗議の言葉が喉までせり上がったが、その前に彼の低い声が耳を打つ。
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