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上書きしちゃった

第8章 すれ違う吐息


缶の底がテーブルに軽くぶつかる音が響いた。

「……あ、なくなっちゃった。」

女が空になった缶を覗き込み、ひとりごとのように呟いた。

頬は赤く、瞳はとろんと潤んでいる。

な「まだあるよ。」

なとりが即座に冷蔵庫を開け、缶を取り出して差し出す。

な「ほら。」

「ありがと、なとり〜。」

女は屈託のない笑顔で受け取り、そのままタツヤの肩に凭れ掛かった。

酔いで重心を失った身体が、自然と彼の方へと傾いていく。

タ「おいおい、甘えすぎじゃない?」

タツヤはそう口にしながらも、楽しげに笑って女の背を支えた。

タ「ほら、こぼすなよ。」

「だって〜……タツヤって落ち着くんだもん。」

女は甘えるように頬をすり寄せる。

指先も無意識のうちに彼の腕へと伸び、布越しに何度も撫でていた。

なとりはその様子を真正面から見ていた。

グラスを持つ指がぎゅっと力を込め、氷の当たる音が鋭く響く。

表情は努めて無に保っていたが、視線の奥では明らかに苛立ちが燃え盛っている。

な「……酔いすぎ。」

ようやく吐き出すように呟いた。

女はその声に気づかず、タツヤに寄り添ったまま笑っている。

タツヤはそんな様子を楽しむように目を細め、わざとらしくなとりを一瞥した。

その余裕の色に、なとりの胸の奥で燻っていた嫉妬が一気に火を吹いた。

な「ねえ。」

低い声で呼びかける。

女はようやく振り返った。

「ん……? なとり?」
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