第7章 揺れる心
タ「おーおー、やっぱり良い雰囲気じゃねぇか。俺が割って入らなきゃ、2人で見つめ合ったまま朝まで過ごすんじゃねーの?」
「そ、そんなことない!」
女が慌てて否定するのを見て、タツヤは声を立てて笑った。
なとりは笑いながらも、タツヤの言葉に微妙な緊張を隠せないでいた。
彼の中で、今日の打ち上げの出来事がまだ引っ掛かっていたのだ。
周囲にからかわれ、タツヤが冗談めかして受け流したのに対し自分は思わず本気をぶつけてしまった。
その空気を、女がどう感じているのか――。
「……なとり。」
女が小声で呼ぶと、彼は一瞬肩を跳ねさせて顔を向けた。
な「え、なに。」
「ありがとう。さっきのこと……本気で言ってくれたんだよね。」
その言葉に、なとりの耳まで赤く染まる。
な「……うん。冗談で言うわけない。」
タツヤはそのやり取りを横目で見ながらまたもや、にやりと笑う。
タ「お前ら、やっぱり似合ってんじゃねぇの?」
冗談とも本気ともつかないその言葉に、女の心は大きく揺れた。
2人の視線を受け止めながら胸の奥が熱くなり、言葉が出てこない。
部屋の中は、グラスの音と3人の呼吸だけが響いていた。
夜はまだ長く、そして3人の距離は、これまでにないほど近づこうとしていた――。
テーブルの上には空になった缶と、開けかけのポテチが散らかっていた。
時計の針はすでに日付を跨いでいる。
夜は深まり、アルコールがほどよく3人の緊張を解きほぐしていた。
女は少し火照った頬を手で押さえながら、ふと視線を横にずらす。
なとりとタツヤの間に流れる空気が、先ほどからどこか張り詰めているように感じた。
タ「……なとり、お前さ。」
タツヤが缶をテーブルにコトリと置き、薄く笑った。
タ「打ち上げの時からずっと顔に出てんぞ。」
な「……何の話ですか。」
なとりは視線を逸らし、残っていたチューハイを1口飲んだ。
けれどその仕草の奥に、隠しきれない感情が滲んでいる。
女が小さく首を傾げると、なとりは急に真剣な眼差しでタツヤを見据えた。
な「……お似合いだって言うなら。」
低く落ち着いた声。
な「だったら……俺にください。」
一瞬、部屋の空気が固まった。
女の心臓は大きく跳ね、息を呑む。