第7章 揺れる心
なとりのマンションに着くと、まだ夜の熱気を引きずった3人の足音が廊下に響いた。
玄関を開けた瞬間、ふわりと香る柔らかな匂いに女は少し落ち着きを覚える。
部屋はシンプルで、白と木目を基調とした落ち着いた空間だった。
「わぁ……きれいにしてるんだね。」
な「別に、普通だって。」
タ「いやいや、思ったより片付いてるな。もっとこう……ギターや譜面で足の踏み場がないのを想像してた。」
タツヤが笑いながら靴を脱ぎ、勝手にリビングへ入っていく。
女も遠慮がちに部屋へ上がり、ソファに腰を下ろした。
壁には何枚かのレコードジャケットや、フェスで撮ったであろう写真が飾られている。
生活感と音楽への情熱が同居する空間に、自然と心が和んでいった。
なとりは冷蔵庫からビールとチューハイを取り出し、テーブルに並べる。
な「好きなの取ってください。つまみは……ポテチと、ナッツくらいしかないけど。」
タ「十分だろ。ほら、乾杯しよーぜ。」
タツヤが音頭を取り、3人はグラスを合わせた。
タ「フェス、お疲れ!」
な「お疲れさま。」
「……お疲れ。」
グラスの中身が喉を通ると、外で感じた夜風よりもずっと心地よい涼しさが広がる。
最初はぎこちなかった空気も話題が今日のステージや裏話に及ぶにつれて、自然と笑いが生まれていった。
タ「なあ、袖から見ててどうだった? 俺のパフォーマンス。」
タツヤが女に問う。
「すごかったよ。本当に……観客の熱も、全部引き受けて返してるみたいで。」
タ「お、嬉しい言ってくれるじゃん。」
そのやりとりを横で聞いていたなとりが、小さく口を尖らせる。
な「……俺の新曲は?」
「もちろん、すごく良かった。あんなMCの後に聴いたら、泣いちゃうよ。」
な「……よかった。」
少しだけ表情を緩めるなとり。
その反応に、女は胸が温かくなるのを感じた。
タツヤはそんな2人を眺め、わざと大げさに肩をすくめた。