第7章 揺れる心
バ「おいおい、やっぱり仲良いんだなー、その2人!」
テーブルの端から端までその冗談が広がり、周囲からも
ス「そうそう。」
ス2「良い雰囲気だよな。」
と笑いが起きる。
女は慌てて両手を振る。
「ち、ちが……そういうんじゃなくて!」
しかしタツヤは平然と受け流す。
タ「まあ、仲が良いのは否定できねぇな。ほら、今日だって袖で1番近くで見てたんだぜ? 俺の専属応援団、みたいな。」
軽口を叩きながらグラスを掲げると、周りから
ス「ほらやっぱりー!」
と一層大きな笑いが起きた。
女は頬を赤らめ、困ったように笑って俯いた。
その姿を横で見ていたなとりの胸に、ずしんと重たい感情が落ちる。
な(……冗談に決まってる。でも、なんでそんなふうに笑って言えるんだよ。)
タツヤの余裕ある態度も女がそれを止められず赤くなっている姿も、なとりの心をじわじわと苛立たせる。
グラスを口元に持っていくが炭酸の刺激がやけに強く感じて、喉を通るたびに熱さが増していくようだった。
周囲の笑い声が一段落したころ、なとりは思わず声を上げていた。
な「……俺だって、仲良いから。」
その場に一瞬の静けさが落ちる。
女が驚いたように振り向き、タツヤはニヤリと口角を上げる。
タ「ん? なとり、お前……何か言ったか?」
な「言いました。俺だって仲良いって。……かやとは。」
空気が微妙に変わる。
冗談半分の空気の中に、なとりの真剣さが混じったからだ。
周囲の何人かが
ス「おお……?」
と面白がるように声を上げる。
女は慌てて小声で制そうとする。
「なとり、そんな……。」
しかしなとりは続ける。
な「俺だって……ちゃんと、かやのこと見てます。だから、タツヤさんにばっかり、そういうふうに言われるの……嫌なんです。」
酔いのせいだけではない。
今日、フェスで彼女が自分の歌を聴いていた姿を思い出す。
その光景が胸の奥を熱くして、思わず言葉になって溢れ出していた。
タツヤはしばらく黙ってなとりを見ていたが、やがて吹き出すように笑った。