第7章 揺れる心
心の中で呟き、指先に力を込める。
キタニの余裕と観客の熱気に煽られ、自然と体が動く。
ステージ袖から見ている女は胸が熱くなるのを感じ、目を閉じてその瞬間を噛み締めた。
2人の声が完全に重なり合い、曲は最高潮に達する。
観客は総立ちで手を振り、歓声が夜空にまで届きそうな勢いだった。
2人は息を切らしながら見つめ合い、自然と笑みがこぼれる。
観客は割れんばかりの拍手と歓声で2人を称え、ステージは熱気に包まれたまましばらく余韻を残す。
なとりはその場で胸の奥が熱くなるのを感じた。
女の視線、タツヤの余裕、そして自分の歌声――
すべてが交錯し、心が満たされていく。
舞台袖に戻ると、女が小さく拍手をして微笑む。
「……すごかった、なとり。」
その一言に、緊張で硬かった肩の力が一気に抜けた。
な「……聴いてくれてありがとう。」
照れくさそうに返す彼の声は、どこか誇らしげでもあった。
熱気がまだ残る舞台袖で3人の空気は少しずつ、しかし確実に複雑に絡み合っていた。
打ち上げの会場は、フェスの熱気をそのまま引き継いだようなざわめきで包まれていた。
出演者やスタッフ、関係者たちが大きな円卓やソファ席に分かれ、それぞれ酒を片手に盛り上がっている。
テーブルには料理が山ほど並び、グラスのぶつかる音や笑い声があちこちから響いていた。
女は、なとりとタツヤに挟まれる形で席についた。
すでに何杯か飲んだタツヤは頬を少し赤らめながらも、相変わらず余裕の笑みを浮かべている。
一方、なとりはグラスを持つ手に力が入りすぎているのか炭酸の泡が絶え間なく立っていた。
「タツヤ、今日の大トリ、本当にすごかったね。」
女が素直な声で褒めると、隣のタツヤはにやりと笑って肩をすくめる。
タ「まあな。お前が袖で見てるの、ちゃんとわかったからな。そりゃ、いつも以上に張り切るしかないだろ。」
さらりと返すその口調は軽い。
だが、その中にわずかに混じる本音に女は思わず胸が高鳴るのを感じた。
ちょうどそのとき、向かいの席に座っていた別の出演者仲間が声を上げた。