第7章 揺れる心
タ「来たな、大切な人のために曲を書く男!」
からかうように言われて、なとりは肩をすくめる。
でも、その表情は緊張と楽しさが入り混じっていた。
な「……ちょっと恥ずかしいけど、まあ……やるしかないな。」
低く呟き、ギターを手に取る。
観客からは大きな歓声と、期待の視線が一斉に飛んでくる。
ステージ中央で並んで立つ2人。
キタニのギターが鳴り響き、観客が一斉に手を振る。
なとりも負けじと弦をかき鳴らす。
心臓の高鳴りが指先まで伝わる。
「……こ、これが2人での初コラボか。」
小さく心の中で呟く。
曲の最初のフレーズが始まると2人の声が溶け合い、会場を包む。
キタニは余裕たっぷりに観客を煽り、なとりは少し硬いけれども感情を込めて歌う。
そのコントラストが、逆に観客の心を引き込む。
歌詞の中で、なとりの心情が垣間見える。
“寂しくなるのは君のせいだ”と歌うたびに、彼女が視界にちらつく。
女は頬を赤くして耳を傾け、まるで自分だけに向けられた歌のように聞いている。
キタニは余裕たっぷりに弾きながら、時折なとりをチラリと見やる。
タ「ほら、もっと声出せよ!」
手招きし、観客と一体になって盛り上げる。
それに応えるように、なとりも力を込めて声を伸ばす。
2人のハーモニーが重なるたび、ステージの熱気はさらに増す。
ギターの音が高鳴り、観客の歓声が波のように押し寄せる。
なとりは思わず目を細め、女に視線を送る。
彼女は小さく微笑み、手を胸に当てて声援を送っていた。
「……こんなに、近くで見られるなんて。」