第7章 揺れる心
なとりは女の横で、そっと口を開こうとしていた。
な「……ちょっと、あの――。」
しかし、タイミング悪く――
いや、運命的に――
ステージから鋭い声が響いた。
タ「おい、みんなー! さっきのなとりのMC、聞いてたかー!?“大切な人に書いた曲”だってよ!」
観客のざわめきが一気にステージに吸い込まれ、歓声が大きく跳ね上がる。
なとりは思わず顔を背ける。
頬が熱くなるのがわかった。
な「ち、ちょっと……!」
女も思わず吹き出してしまう。
「なとり……顔、赤いよ。」
くすぐったそうに笑うその声に、なとりの心臓はさらに速く跳ねる。
タ「お前、今すぐステージに来い!」
キタニの声は鋭くも楽しげで、まるで悪戯を仕掛けているかのようだった。
観客もその掛け声に大きく沸き、なとりの名前をコールする。
な「え……ええっ、俺が――?」
声が裏返りそうになる。
女の手を軽く握り、心の中でそっと謝った。
「な、なとり、行こうよ!」
女が小声で背中を押す。
そのひと言が、彼をほんの少し後押しした。
ステージに1歩踏み出すと、観客の熱気が肌に直撃する。
まばゆいライトに包まれ、ギターの音が耳を揺らす。
そして、キタニが笑顔で手を差し伸べる。