第6章 抗えない視線
な「……あれは……。」
喉の奥に言葉がつかえる。
でも、逃げたくなかった。
もう嘘はつきたくない。
な「本当に、大切な人のことを思って、書いた曲。」
それ以上は言葉にできなかった。
けれど、それだけでも自分の想いがどこまで伝わってしまうのか怖くてたまらない。
女は視線を少し逸らし、髪を耳にかける仕草をした。
頬が赤い。
けれどそれは照れか、困惑か判断できなかった。
「……ずるいね、そういうの。」
小さな声で呟く。
な「ずるい?」
「だって、あんな大勢の前で、そんな風に言われたら……。」
言いかけて、言葉を飲み込んだ。
彼女は、はっきりと答えを口にすることなくただ目を伏せる。
なとりは胸の奥が苦しくなる。
それでも、彼女が自分の歌に反応してくれたことが嬉しくて仕方なかった。
な「……感想、聞きたかったんだ。」
ぽつりと漏らす。
女は驚いたように目を上げた。
「感想……?」
な「うん。かやがどう思ったのか。それが1番、知りたかった。」
自分でも照れくさくなるほど、まっすぐな言葉だった。
けれど、それ以上取り繕えない。
彼女の前では、いつもの淡々とした“なとり”ではいられなくなる。
女はしばらく黙ったまま、じっと彼を見つめていた。
視線が絡み合い、心臓の音が耳に響く。
やがて、小さく笑った。
「……すごく、心に刺さったよ。私だけに言われてるみたいで……ちょっと、困った。」
その返事に、なとりの胸が熱くなった。
頬が緩むのを隠せない。