第5章 君を映す歌
夜風が火照った頬を撫でていた。
酔いがまわっているのが自分でもわかる。
足取りはおぼつかず、視界もどこか揺れている。
タ「ほら、大丈夫か。」
隣を歩くキタニが、迷いもなくかやの腕を掴んだ。
彼の手は驚くほど熱くて、支えられた瞬間に身体の力が抜けそうになる。
「……大丈夫。」
そう答えようとしたが、声は頼りなく震えていた。
結局、彼は半ば抱きかかえるようにして家の前まで送ってくれた。
玄関の鍵を開ける手つきさえ怪しかったのだろう、キタニがさっと鍵を取り上げ代わりに差し込む。
タ「危なっかしいな。ほら、入れ。」
促されるまま中へ足を踏み入れると彼は腕を回してきて、リビングのソファまで導いてくれた。
タ「そこに座ってろ。水でも持ってくる。」
彼が立ち上がろうとした瞬間、思いがけず足がもつれて、かやはそのまま前につんのめる。
「――っ。」
気づいたときには、キタニの胸に倒れ込んでいた。
重心を失った拍子に、彼をソファへ押し倒す形になる。
タ「……へぇ。」
わずかに見上げる形になった彼の口元が、愉快そうに歪む。
タ「酔ってるくせに、積極的だな。」
「ち、違……。」
慌てて身を起こそうとする。
だが、その腕を強く引き寄せられた。
驚きで息が詰まる。
タ「せっかくだから、そのままにしとけよ。」
低い声が耳に触れた瞬間、唇を塞がれる。
熱が、舌先から一気に流れ込む。
頭の奥が痺れたようになり酔いなのか彼の熱のせいなのか、区別がつかない。
「ん……。」
小さな声が零れ、彼の指先が背中をなぞる。
ドクドクと心臓が鳴り響く。
退こうとした体を、逃がさないように抱きしめられて。
タ「……逃げんなよ。こっちが本気にするだろ。」
唇を離した彼が、意地悪く笑う。
頬が熱い。
視線を逸らそうとするが顎をそっと掴まれ、再び唇を奪われる。
重なるたびに息が乱れていく。
ソファに押し倒され、彼の体温が覆いかぶさる。
指先が髪をかき分け首筋を撫でた瞬間、背筋が震えた。