第5章 君を映す歌
タ「……こういう顔、酔ってないと見せてくれないんだな。」
彼の声は笑っているようで、どこか切実でもある。
その響きに抗う力が弱まっていく。
衣擦れの音が耳に届き、胸の鼓動は限界に近づく。
逃げようとした意志は、いつのまにか
「このまま委ねてしまいたい。」
という欲望に変わっていた。
彼の唇が首筋から鎖骨へ、ゆっくりと下りていく。
熱が触れるたび、浅い息が漏れる。
その声を聞いて、キタニはますます意地悪く口元を吊り上げた。
「な、んで……そんな顔……。」
思わず掠れた声を出すと、彼は耳元に囁く。
タ「可愛いからだよ。……もっと欲しそうにしてみろ。」
頭の中が真っ白になった。
酔いと熱に支配され抗えないまま彼の指が肌をなぞり、唇が重なる。
世界が遠ざかり、彼の体温だけがすべてになっていった。
ソファの上、身体を覆いかぶさるようにして重なったまま彼の吐息が耳朶をかすめた。
タ「……逃げられないな、これじゃ。」
わざとらしく囁く声が熱を帯びている。
返そうとした言葉は、舌を絡めるような深い口づけにかき消された。
舌先を弄ばれるたび、背中に震えが走る。
抗うつもりで肩を押すが、その手首を掴まれ逆にソファへと縫いつけられた。
タ「手、震えてる。」
彼が指先を絡めて囁く。
その声音には余裕と、僅かな独占欲の滲む色があった。
指先が裾を滑り込み、熱い掌が腹を這う。
「……っや……。」
拒む声も弱々しく、布の上から胸をなぞられると反射的に身体が反り返ってしまう。
そんな反応を見逃さず、キタニは低く笑った。
「タツヤ……やめ……。」
震える声で名前を呼んだ瞬間、彼の表情が一瞬だけ鋭く揺れた。