第5章 君を映す歌
立ち上がろうとした瞬間、空気が張り詰める。
「ちょっと、トイレ……。」
そう言いかけたところで、なとりの手が腕を掴んだ。
思っていたよりも強い力。
その勢いでバランスを崩し、ソファに倒れ込むように背中が沈んだ。
「……っ!」
驚いて声が漏れるが、気づけばなとりがすぐ上に覆いかぶさる形になっていた。
彼の顔が間近にある。
吐息が触れるほどの距離。
な「ごめん……止められなかった。」
そう言いながらも、頬がほんのり赤くなっている。
けれどその瞳には、照れよりもむしろ楽しげな光が宿っていた。
「なとりくん……。」
な「逃げようとしたでしょ。」
「ち、違……。」
言い訳の続きを言う前に、彼の指先が頬をなぞる。
な「ほんと、不器用だな……僕。」
少し困ったように笑うけれど、視線はどこか獲物を追い詰めたように鋭い。
な「でも、こうなるの……悪くないでしょ。」
そのまま唇が重ねられる。
柔らかいけれど、どこか必死で深く求めるような口づけ。
最初は強引だと感じたのに、舌を絡められると抗えず喉の奥から甘い声が漏れてしまう。
「……っ、だめ……。」
弱々しい抵抗の声。
けれどなとりは余裕のない笑みを浮かべ、さらに深く唇を重ねてくる。