第4章 止まれない2人
な「……やっぱり、今夜呼んでよかった。」
缶ビールをテーブルに置き、空いた手がゆっくりとこちらの膝に触れる。
それだけで、呼吸が荒くなるのを抑えられない。
な「さっき“照れた”って言いましたよね。」
「え……?」
な「僕の歌詞のこと。照れたって。」
「……あれは、その……。」
言い訳を探す舌がもつれる。
な「それなら、やっぱり届いてるってことですよ。」
なとりの声は低く落ち着いていて、逃げ場を用意しない。
彼の指先が膝の上をゆっくりとなぞり、その軌跡がじわじわと熱を残していく。
「……ほんとに、飲むだけって言ったのに。」
思わず抗議の言葉を口にするが、声は弱く震えていた。
なとりは小さく笑った。
な「飲むだけ、って言いましたけど……僕の中で“飲むだけ”は、ちょっと特別な意味があるんですよ。」
「特別……?」
な「うん。大事な人と、2人きりで過ごす時間。言葉よりも、空気で伝わることがある。」
彼の手が膝から太腿へと、ほんの少しだけ上へ移動する。
わずかな動きなのに、全身が熱を帯びる。
な「だから、コメント欄じゃなくて……あなたの声で聞きたい。」
視線が合ったまま、逃げられない。
息が詰まるほどの静寂が、部屋を満たしていく。
缶ビールの炭酸のはじける音さえ、やけに大きく耳に残った。
な「……好き、って。」
なとりの囁きは、すぐ耳元に届く距離まで迫っていた。