第4章 止まれない2人
なとりが少し驚いたように目を瞬かせ、それから柔らかく笑う。
な「確かに、“好き”って言葉、多かったかもしれない。」
「そうそう。あれ読んでるだけでちょっと照れるくらいだった。」
わざと笑いながら、視線をテーブルに落とす。
ほんの少し、空気が和らげば良い。
そう思ったのに、なとりは逆に声を低くして続けた。
な「でも、“好き”って言葉……僕にとっては1番大事なんですよ。」
その声音に、呼吸が一瞬止まった。
軽口のつもりが、逆に核心を突かれたような居心地の悪さ。
缶を持つ指が汗で滑りそうになる。
な「ファンの人に言ってもらえるのはもちろん嬉しい。でも――。」
なとりは少し身を寄せ、こちらの横顔を覗き込むように視線を落とす。
な「1番、聞きたい人からは、まだちゃんと聞けてない。」
その“1番”が誰を指しているのか。
考えるまでもない。
けれど、考えてしまう。
心臓がどくどくと、嫌になるくらいに正直なリズムを刻んでいた。
な「……だからコメントの話なんてしないで、あなたの言葉が欲しい。」
至近距離で囁かれた声に、思わず身体を硬くする。
逃げようとした視線を、なとりの目が捕まえて離さない。
「なとりくん……。」
自分でも驚くほど弱い声が出る。
それ以上言葉が続かない。
雰囲気を逸らすために出した話題が、逆に自分を追い込んでいく。
頭の中で“まずい”と何度も警鐘が鳴るのに、体はすくんで動かない。
なとりはその反応を楽しむように、にこりと笑みを浮かべた。