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上書きしちゃった

第4章 止まれない2人


慌てて口にした言い訳。

けれど、それは脆く崩れることになる。

な「そうなんですか? でも――。」

なとりがスマホを取り出し、画面を軽くこちらに見せた。

な「ここ来る前にツイートしてましたよね。“明日は1日オフ”って。」

血の気が引くのが分かった。

確かに、昼間に何気なく投稿していた。

仕事の予定がなく、珍しく丸1日休みだと。

まさか、それを覚えられているなんて思わなかった。

「……見てたんだ。」

な「もちろん。僕、結構ちゃんと見てますから。」

にこりと笑うなとり。

その視線は軽い冗談を装っていながらも、こちらの逃げ場を塞ぐ確かさを持っている。

「……でも、ほら、ちょっと疲れてるし。」

な「大丈夫ですよ。飲むだけですから。」

“飲むだけ”――

その言葉に、心が揺れる。

本当にそうなのか、それとも。

頭の片隅で警鐘が鳴るのに、なとりの人懐っこい笑みと拒めば何かを壊してしまうような恐怖が入り混じって言葉をのみ込んでしまう。

横でキタニが

タ「……じゃあな。」

と一言残して去っていく。

その背中が角を曲がり、見えなくなった瞬間。

夜の空気が一気に変わった気がした。

2人きりになった。

その事実だけで、喉が乾く。

な「じゃあ、行きましょうか。」

なとりが自然な動きで歩き出す。

その背中を追うしかなく、気づけば足が勝手に前へ進んでいた。



電車に揺られ、なとりの家の最寄り駅に降り立つ。

夜の街は人影もまばらで、夏の湿った空気が肌にまとわりつく。

コンビニで軽く買い足しをし、彼の家へ向かう道すがら会話は妙に途切れがちだった。

「……ほんとに、飲むだけ?」

自分でも情けないほど弱々しい声が出た。

なとりは横を歩きながら、ちらりとこちらを見て笑う。

な「もちろんです。僕、そんな信用ないですか?」

冗談めかした口調。

けれどその奥にある熱を、過去の夜を知っている自分は感じ取ってしまう。

信用があるかどうかじゃない。
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