第4章 止まれない2人
瞬間、背筋に走る衝撃。
タツヤ――。
あの夜なとりと並んで自分を抱いた、もう1人の男。
スマホを握りしめた手が汗ばむ。
“行く”わけにはいかない。
行けば、また前みたいに心を乱されるのは目に見えている。
けれど――
“2人が自分を呼んでいる” その言葉が、抗えないほど強い引力を持って迫ってくる。
(……行ったら、どうなるんだろう……。)
結局、理性は曖昧なまま。
気づけば“少しだけなら”と返事をしていた。
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店の暖簾をくぐると、ざわついた居酒屋の空気と共に2人の姿が目に入った。
奥のテーブル、すでにジョッキを手にしている2人。
なとりはいつもの人懐っこい笑みを浮かべ、手を振る。
対照的にキタニは余裕めいた薄い笑みを口元に留めただけで、グラスを傾けていた。
な「来てくれてよかった。」
「……遅れてごめん。」
席に腰を下ろすと、なとりが店員を呼び
な「生、ひとつ追加で。」
と慣れた調子で注文する。
その手際の良さに、思わず目を細めてしまう。
な「新曲、聴きましたよね?」
切り出したのは、やはりなとりだった。
グラス越しにまっすぐな視線が突き刺さる。
逃げようとした瞬間、キタニが口を挟んだ。
タ「感想くらい、素直に言ってやれば良いだろ。」
「……。」
タ「ほら、俺だって聴いたけど、なとりらしい曲だった。」
何気ない調子で言うキタニ。
けれど、その眼差しには微かに探るような色があった。
2人の間に挟まれたまま、言葉を選ぶ時間すら与えられない。
「……すごく、よかった。なとりくんらしい曲で。」
ようやく口にした答えは、曖昧さを隠したものだった。
けれど、なとりはそれで満足したように笑みを深めジョッキを合わせてきた。
な「よかった……ちゃんと、届いてるなら。」
その声音が、ただの確認以上の意味を孕んでいることに気づいてしまう。
胸がざわつき、喉を湿らせようとビールを口に含む。
苦味がやけに強い。