第4章 止まれない2人
外の空気は夜に沈みかけ、街灯の光がにじんで見えた。
携帯の再生画面には、まだ再生回数の少ない“新曲公開”の文字。
つまり、本当に数時間前にアップされたばかりなのだ。
(……わざわざ、私に1番に送ってきたってこと……?)
心臓が速く打ち始める。
あの夜、抑えきれずに貪った彼の眼差し。
その熱と、この歌詞の情熱が1本の線で繋がっていく。
通知欄には、他に何もメッセージはない。
ただ無言でURLだけを寄越す――
その無骨さもまた、彼らしい。
言葉にせずとも、歌でしか言えない想い。
震える指で、再び曲を最初から再生してしまう。
2度目に聴いたとき、余計に心に沁み込む。
まるで、何度も聴かせて“気づけ”と言われているように。
(……どうしよう……。)
頭では“ただの曲”と思おうとする。
だが心の奥では“これは自分への歌”だと確信してしまう。
夜風が頬を撫でても、火照りは冷めない。
むしろ、胸の奥で燃え上がる熱は増していく一方だった。
――自分は、どちらに惹かれているのか。
タツヤか、それとも、なとりか。
2人の間で揺れる心は、まだ答えを出せないまま彼の歌声に囚われ続けていた。
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数日が経った。
あの日、CDショップで偶然聞いたキタニの曲と、なとりから届いた新曲。
あれからずっと、心の奥には靄のような熱が居座り夜になっても眠りが浅い。
それなのに、返事はできなかった。
どう言えば良いのか分からなかったから。
“よかったよ”
“私に向けてるの?”
“聴いて、泣きそうになった”
思いつく言葉は、どれもあまりに生々しい。
相手に期待を持たせすぎるのも怖いし、そもそも自分の気持ちが定まっていない。
結局、スマホを開いては閉じ未読のまま数日が過ぎてしまった。
そんな夜、ようやく通知が鳴った。
差出人は――
なとり。
“新曲はどうでしたか”
シンプルな1文。
それだけなのに、心臓が跳ねる。
ずっと触れられずにいた場所を、不意に撫でられたみたいで呼吸が浅くなる。
「……どうしよう……。」
文字を打っては消す。
“よかった”と言うには足りないし、正直に“胸が熱くなった”と返すには重い。
迷っているうちに、また通知が震えた。
“今、タツヤさんと飲んでるんです。来ませんか”