第4章 止まれない2人
送られてきたのは、一言もなく YouTubeのURLだけ。
「……え?」
眉をひそめつつ、そのまま開いてみる。
画面に映ったのは、彼の公式チャンネル。
アップロードされたばかりの新曲のMVだった。
再生ボタンを押すと、柔らかくも切ないコードが広がる。
そして、なとり特有の憂いを帯びた声が流れ込んできた。
♬――
歌い出しの1節で、心臓が強く跳ねる。
まるで今の自分との夜を思い出して書かれたような、そんな錯覚すら覚える。
歌詞には“細胞単位で愛してんのに”、“愛憎で動くブリキのように”、“君次第だよ、全部”など彼の内側に潜む想いが、まるで吐露するかのように綴られていた。
胸の奥がじわりと熱くなる。
(……これって……もしかして……。)
恋愛ソングといえばそうだろう。
だが、なとりの節回し、独特な歌い回しが、ただの抽象ではなく“誰か特定の存在”に向けられたように響いてしまう。
数日前の夜、自分を貪るように抱きしめ“止まれない”と言い切った、あの熱が重なる。
喉が渇き、無意識に携帯を握る手に力が入る。
歌は進む。
“後戻り出来ず終わるだけ”
“消化不良の言葉、頭の中で融かして”
“「愛している」だって嘘になりそうだ”
言葉のひとつひとつが鋭く胸を突き刺す。
まるでラブレターを受け取ったかのような錯覚に陥り、足がすくんだ。
「……なに……これ……。」
小さな呟きは、誰にも聞かれない。
周囲はただ買い物に夢中で、MVの歌声がイヤフォンから流れるこの世界に触れる者はいない。
それでも、自分に向けられているのではないかという思いが離れなかった。
もし本当にそうなら――
彼は曲にしてまで、想いを告げてきている。
だが同時に、頭に浮かぶのはもうひとりの存在。
タツヤ。
余裕を纏いながらも、最後には嫉妬を覗かせ自分を深く抱いた彼。
彼の腕に絡め取られた熱も、また消せない記憶として残っている。
(……どうしたらいいの……私……。)
音楽が終わるころには、涙がにじんでいた。
それを拭おうとするが誰にも気づかれたくなくて、慌てて店を出る。