第4章 止まれない2人
仕事を終え、定時で上がった足取りは軽いはずだった。
疲労感を引きずりつつも、なぜか寄り道をしたくなり、ふらりとCDショップの自動ドアをくぐる。
冷たい空調と共に、天井のスピーカーから流れてきたのは聞き覚えのある旋律――
キタニの楽曲だった。
その瞬間、胸の奥に重く鈍い衝撃が走った。
数日前の夜の記憶が、否応なく脳裏に甦る。
ベッドに押し倒され逃げ場をなくしたまま、2人の男に絡め取られた熱の残像。
「……っ。」
思わず立ち止まり、棚のCDを掴んで視線を落とす。
頬が熱い。
ここは公共の場で誰も自分を見てなどいないのに、あまりに生々しい記憶のせいで背徳の熱がじわりと蘇ってしまう。
(なんで、こんなところで……思い出すの……。)
気まずさに耐えきれず、その場を取り繕うように足を進め適当にディスプレイを眺めるふりをした。
だがBGMは止まらない。
彼の歌声とギターのフレーズが、胸の奥の痛いところを正確に抉ってくる。
レジ横に差し掛かったとき、不意にポケットの中の携帯が震えた。
通知音が鳴る。
取り出して画面を覗くと――
差出人は、なとり。