第27章 また3人で
気づけば周囲の喧騒に紛れながらも、テーブルの上は賑やかだった。
「なんかさ……こうしてまた飲めるの、嬉しいな。」
女がぽつりと呟くと、2人は顔を見合わせた。
キタニはグラスを軽く回しながら、静かに頷く。
タ「俺も思ってた。ずっと避けてたけど……もうそろそろ、良いだろって。」
なとりも笑みを深め、少し照れたように言った。
な「またこうやって話せるなら、それだけで十分だよ。」
胸が熱くなる。
当たり前に失ったと思っていた時間が、また戻ってくるのかもしれない。
気づけば3人とも頬を赤くしていた。
昔と同じように、くだらないことで笑い合い互いの言葉に真剣に耳を傾ける。
その一瞬一瞬が愛おしくて、女はグラスを持つ手に力が入った。
「ありがとう、誘ってくれて。」
そう言うと、キタニは肩をすくめる。
タ「礼を言うことじゃない。俺が飲みたかっただけ。」
なとりが笑って
な「でも本当は心配してたんでしょ。」
と茶化すと、キタニはむっとした顔をしつつも否定はしなかった。
その様子が可笑しくて、また笑いが起きる。
夜はまだ続く――
そう思える時間が、何よりも幸せだった。
居酒屋を出ると、夜風が頬に触れた。
さっきまでの賑やかな笑い声が耳に残っている。
街の灯りは優しく滲み、久しぶりに心が軽くなったように思えた。
な「じゃあ、また。」
なとりが小さく手を振る。
キタニは口数少なく頷いただけだったが、その仕草が妙に懐かしく胸を締めつけた。
3人はそれぞれの帰路に向かう。
けれど女の胸の奥に芽生えた温度は、すぐには冷めなかった。