第27章 また3人で
だが、打ち合わせが終わって事務所を出た後ポケットの中で何度もスマホを触ってしまう自分に気づく。
以前なら自然と“今日はこのあとどうする?”と誘われ気づけば3人で食事に行き、くだらない話をして時間を忘れていた。
今は、その一言がもう2度と口にされない。
誰かを誘う勇気も出せない。
ルールを破ってはいけない、とわかっているから。
夜、自宅に戻ると部屋はしんと静まり返っていた。
ソファに腰を下ろし、照明の下でぼんやりと天井を見上げる。
ひとりの部屋は、どうしてこんなにも広く感じるのだろう。
以前は2人がいて、リビングは常に生活の音で満たされていた。
キタニがぶっきらぼうにギターを鳴らし、なとりがそれに合わせて歌い出す。
やがて3人で笑い合い、夜更けまで話してしまう――
そんな時間が当たり前のようにあった。
けれど今は、時計の針の音さえ耳障りに感じるほどの静けさしかない。
「……はあ。」
ため息が漏れる。
寂しさだけではなかった。
孤独は時に、不安を引き連れてくる。
「もし、もう2度と前みたいに話せなかったら……。」
「もし、仕事の現場でも関係がぎくしゃくしてしまったら……。」
そんな考えがふと頭をよぎり、胸をぎゅっと掴まれるように苦しくなる。
スマホを手に取り、連絡先の画面を開いてしまう。
“タツヤ”、“なとり”
名前を見つめるだけで、指先が震える。
「元気?」
の一言さえ、今は許されないような気がして結局何も打たないまま画面を閉じる。
キッチンに立って食事を用意しても、味はしない。
テレビをつけても、内容が頭に入らない。