第27章 また3人で
夜遅く、玄関の扉が静かに開いた。
リビングのソファに沈み込む女となとりは同時に顔を上げる。
「……おかえり。」
女が声をかけたが、返ってきたのはどこか重たい気配だった。
靴を脱ぎながら部屋に入ってきたキタニは、普段の無表情にも似た鋭い眼差しをさらに険しくしている。
苦虫をかみ潰したような顔――
その形容がぴったりだった。
タ「……マネージャーから、聞いた。」
低く落とされた声に、リビングの空気が一気に張りつめる。
なとりが身を乗り出すようにして問いかける。
な「……記者の件ですか?」
タ「ああ。もう完全に嗅ぎまわられてる。下手すりゃ、写真も撮られてるかもしれない。」
女の喉がごくりと鳴る。
さっきから重たかった胸の鼓動がさらに速まる。
キタニは2人の前に立ち、しばし黙り込んだ。
沈黙は、言葉よりも重い圧力を放っていた。
やがて彼は吐き捨てるように口を開く。
タ「……もう関わるのはやめよう。」
女は反射的に顔を上げた。
「え……。」
なとりも一瞬言葉を失う。
な「どういう意味……ですか。」
キタニは目を細め、2人を交互に見据えた。
タ「異性関係はいろいろと厄介なんだよ。今回の件でよくわかったろ。仕事で絡むのは仕方ねえ。でもプライベートまで一緒にいる必要はない。これ以上火種を増やすな。」
鋭い口調に、女の胸が締めつけられる。
たしかに週刊誌に追われるという現実を突きつけられている以上、反論できる余地はほとんどない。
それでも、ここまで一緒に過ごしてきた時間を否定されるような言葉は、あまりに冷たく響いた。
「……でも。」
かすかな声を漏らすと、キタニの視線が突き刺さる。
タ「“でも”じゃない。俺らはミュージシャンだ。余計なゴシップで活動止められるのが1番困るだろ。」