第26章 交わる現在、戻らない過去
鞄を置き、女は2人の前に立つ。
胸の奥でずっと引っ掛かっていた言葉を、ようやく口にする。
「この前は……本当に、ごめんなさい。そして……助けてくれてありがとう。」
深々と頭を下げると、短い沈黙が落ちた。
最初にため息をついたのはキタニだった。
タ「お前なあ……。」
その声音には怒りよりも呆れが混じっていて、女は余計に胸が締め付けられる。
なとりが続く。
な「……謝るのは良いけど、俺たちにとって1番怖いのは、かやが自分を守らないことなんだよ。」
「……。」
な「人を信用しすぎ。誰かが優しくすれば“悪い人じゃない”って思う。そういうところ、危ういよ。」
図星だった。
女は膝の上で手をぎゅっと握りしめ、視線を落とす。
頭ではわかっている。
だが、あのときも“仕事だから”、“悪い人じゃないから”と思い込んで結局自分を危険に晒してしまった。
「……本当に、そうだよね。軽率だった。」
小さな声で認めると、キタニが
タ「やっとわかったか。」
と鼻で笑った。
その不器用な態度に、逆に救われる。
なとりは女の隣に腰を下ろし、そっと手を重ねた。
な「でも、ちゃんと反省してるなら良い。俺たちは、何があってもかやの味方だから。」
「……ありがとう。」
その言葉に涙がにじむ。
守られている安心感と自分の弱さへの悔しさが入り混じって、胸がいっぱいになった。
キタニはソファに背を投げ出し、空になった缶をテーブルに置いた。
タ「ったく……こんなことで心配かけんな。俺らはお前に音楽してほしいだけなんだよ。変な男に振り回されるな。」
「……うん。」