• テキストサイズ

上書きしちゃった

第26章 交わる現在、戻らない過去


鞄を置き、女は2人の前に立つ。

胸の奥でずっと引っ掛かっていた言葉を、ようやく口にする。

「この前は……本当に、ごめんなさい。そして……助けてくれてありがとう。」

深々と頭を下げると、短い沈黙が落ちた。

最初にため息をついたのはキタニだった。

タ「お前なあ……。」

その声音には怒りよりも呆れが混じっていて、女は余計に胸が締め付けられる。

なとりが続く。

な「……謝るのは良いけど、俺たちにとって1番怖いのは、かやが自分を守らないことなんだよ。」

「……。」

な「人を信用しすぎ。誰かが優しくすれば“悪い人じゃない”って思う。そういうところ、危ういよ。」

図星だった。

女は膝の上で手をぎゅっと握りしめ、視線を落とす。

頭ではわかっている。

だが、あのときも“仕事だから”、“悪い人じゃないから”と思い込んで結局自分を危険に晒してしまった。

「……本当に、そうだよね。軽率だった。」

小さな声で認めると、キタニが

タ「やっとわかったか。」

と鼻で笑った。

その不器用な態度に、逆に救われる。



なとりは女の隣に腰を下ろし、そっと手を重ねた。

な「でも、ちゃんと反省してるなら良い。俺たちは、何があってもかやの味方だから。」

「……ありがとう。」

その言葉に涙がにじむ。

守られている安心感と自分の弱さへの悔しさが入り混じって、胸がいっぱいになった。

キタニはソファに背を投げ出し、空になった缶をテーブルに置いた。

タ「ったく……こんなことで心配かけんな。俺らはお前に音楽してほしいだけなんだよ。変な男に振り回されるな。」

「……うん。」
/ 247ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp