第26章 交わる現在、戻らない過去
すると画面が再び震えた。
【……実はね、俺も君のこと、ずっと気になってた】
思考が止まった。
唇に手を当て、声にならない息を漏らす。
まさか彼の方から、そんな言葉を聞く日が来るなんて――
信じられなかった。
その日の夜、どうしても気持ちを整理できず女は歌い手と会う約束をした。
場所は静かなカフェ。
人気の少ない個室のような席に腰掛けると、彼は少し照れた笑みを浮かべてこちらを見ていた。
歌「……本当に、なかったことにするの?」
穏やかに問いかける声。
女はうつむき、指先でマグカップを撫でる。
「うん……だって、私……。」
言葉は途中で詰まる。
どうしても言えない。
あの夜のことも、2人のことも。
そんな女を見つめて、歌い手は小さく息を吐いた。
歌「もしも、誰かに強く縛られてるなら……俺、かやちゃんを助けたい。」
その真剣な瞳に、心が揺れる。
「ちがうの……。私はただ、弱いだけ。」
かすれる声で必死に否定する。