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上書きしちゃった

第25章 曖昧な幸せ


数日が過ぎても、胸の奥に沈む重さは消えなかった。

あの夜のことを思い出すたび、女の心臓は強く締めつけられる。

自分の不用意な気持ちが、なとりとキタニを傷つけてしまったのではないか――

その自責の念に苛まれていた。

彼らの眼差し。

乱暴に抱かれた夜の熱。

愛情と独占欲が入り混じった行為の余韻は、心と体に深く刻まれている。

それでも歌い手へのときめきだけは消えず、むしろ胸を刺すように強まっていた。

――こんな気持ち、許されない。

そう思うほどに彼の優しい声や笑顔を思い出してしまう。

どうしてもけじめをつけなければならないと、女は震える指で携帯を握った。

【……あの、こないだの……告白のことなんだけど】

勇気を振り絞ってメッセージを送る。

画面を見つめる間、心臓は耳元で爆音を立てるようだった。

しばらくして返ってきた既読の文字。すぐに通知が震えた。

歌【なぜ? 俺、すごく嬉しかったんだよ】

短い文章に優しさが滲んでいる。

それがまた苦しくて、指は勝手に返信を打っていた。

【私……大事な人たちを傷つけちゃった。だから、なかったことにしてほしい】

数秒後、返ってきたメッセージは思いもよらないものだった。

歌【かやちゃん、もしかして2人に何か嫌なことされてる? もしそうなら、俺に話してほしい。力になりたい】

女は目を見開いた。

心の奥まで見透かされているような言葉。

それでも彼に余計な心配をさせたくない一心で、慌てて否定の返信を打つ。

【違う、そんなことない。ただ私が弱いだけ。ごめん】

送信したあと、胸の奥に空洞が広がる。

罪悪感と、彼への思いと。

複雑な感情に揺れていた。
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