第24章 終わらない熱
数秒後、ドアが開き顔を出したのは――
なとりだった。
深夜の来訪者に驚いたのか、一瞬目を見開く。
そして彼の視線が酔いつぶれている女と、その肩を支えている歌い手を交互に行き来した。
な「……は?」
低く漏れた声に、場の空気が一瞬で張りつめる。
歌「えっと……こんばんは。彼女が酔ってしまって、1人じゃ帰れなさそうだったので、送ってきました。」
歌い手は冷静に説明する。
だが、その声に含まれる礼儀正しさとは裏腹に、なとりの目は明らかに疑念と怒りを帯びていた。
女は状況を把握できず、酔いのせいでぼんやりとした笑みを浮かべているだけだった。
「……ありがと…………。」
その言葉を聞いた瞬間、なとりの眉がさらに深く寄る。
歌「……中まで入りますか?」
歌い手が遠慮がちに問いかけると、なとりはドアを強めに押し広げた。
な「良い。ここまでで十分です。……送ってくれてどうも。」
声色は丁寧だが、張り詰めた棘が隠せていない。
歌い手は小さく頷き
歌「では……また。」
と短く告げてタクシーの方へ歩き出した。
その背中を見送りながら、なとりは女を玄関へ引き入れる。
な「……どういうこと、これ。」
低く押し殺した声が、酔いでふらふらの女の耳にもはっきり届いた。
女は必死に
「ちがうの……。」
と口を動かしたが、うまく言葉にならず、なとりの腕に体重を預けるだけだった。
重たい沈黙が玄関に落ちる。
閉じられた扉の向こうには去っていく歌い手の気配がまだ残っているような気がして、女の胸はざわめき続けていた。