• テキストサイズ

上書きしちゃった

第24章 終わらない熱


女は迷った末に、もう1度文字を打ち込んだ。

【それでも……どうしてもお礼がしたいんです。あなたじゃなきゃだめなんです】

送った瞬間、頬が熱くなる。

まるで告白めいた言葉に見えてしまうのではないかと、画面を見ながら身をすくめる。

しばらく返事がなかった。

心臓が喉まで上がりそうな緊張に耐えていると、通知音が鳴った。

歌【じゃあ……またコラボしてほしいです。それが1番うれしいお礼になるから】

文面を見た瞬間、息をのんだ。

彼から“また一緒に”という言葉がもらえるなんて――。

嬉しさと同時に胸がぎゅっと締め付けられる。

【はい。ぜひ、お願いします】

震える指でそう返信すると、彼から笑顔のスタンプが送られてきた。

たったそれだけのやり取りなのに心は大きく跳ね上がり、まるで新しい扉が開かれたような気がした。



数日後。

スタジオに入ると、すでに歌い手が機材の前に座り準備をしていた。

振り返った彼は、以前よりも少しだけ柔らかい表情を見せた。

歌「来てくれてありがとう。忙しいのに無理言ってごめんね。」

「ううん。こちらこそ、また一緒にできてうれしいです。」

言葉に偽りはなかった。

いや、むしろ抑えきれないほどの高揚感が胸の奥からあふれ出していた。

マイクを前に並んで立つ。

リハーサルで流れ出した伴奏に合わせて声を重ねると、空気が一変する。

彼の歌声と自分の声が重なった瞬間、ぞくりと背筋が震えた。

相性の良さを改めて感じる。

お互いの声が絡み合い、響き合って1つの旋律になる。

その一体感がたまらなく心地よかった。

歌「やっぱり良いな……。」

録音を止めた後、彼がぽつりと呟いた。

「え?」

歌「君と歌うと、普段よりも声が伸びる感じがする。安心するっていうか……すごく自然なんだ。」

不意に告げられた言葉に、胸の奥が熱を帯びる。

その視線は真剣で、逃げ場がなくなる。

「……私も、そうです。あなたと一緒だと、不思議と安心して、歌に集中できる。」

静かなスタジオに2人の声だけが響く。

その距離は思った以上に近く、少しでも動けば肩が触れそうだった。
/ 247ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp