第24章 終わらない熱
“間に合ってよかった”――
その一言を思い出すたび、胸がじんわりと熱くなる。
――どうしてこんな気持ちになるんだろう。
自分でも説明がつかない感情に、心が揺れる。
しかしその表情をキタニに悟られてはならない。
安堵と同時に芽生えた秘密の気持ちを必死に胸の奥に押し込めながら、女はただ静かにうつむいた。
リビングの照明は柔らかく灯っていたが、女の心臓の鼓動は落ち着かないままだった。
数日前のニュースでバンドマンの男が逮捕されたことは確かに安堵をもたらした。
けれどそれ以上に、自分を助けてくれた歌い手の存在が胸の奥に強く残り続けている。
ソファに腰掛け、手にしたスマホの画面を開く。
指先が震えてメッセージアプリをタップした。
――彼にお礼をしなければ。
それは自然な理由だった。
自分を助けてくれた人にきちんと感謝を伝えたい。
それ以上でも以下でもない、と自分に言い訳をしながら慎重に文字を打ち込んでいく。
【この前は助けてくれて本当にありがとう。あの時、あなたがいなかったらどうなっていたか……考えると怖いです。どうしてもお礼がしたいです。】
送信ボタンを押した瞬間、心臓が跳ねた。
既読がつくまでの数秒が、何倍にも引き延ばされたように感じる。
すぐに返事が届いた。
歌【お礼なんて良いですよ。困ってるのが見えたら誰でもそうしたと思います】
優しい言葉。
けれど、胸の奥が少し寂しくなる。
彼は自分に特別なことをしたわけではないと言っているのだ。
舞台上の人だからこそ、その距離感は当然なのかもしれない。
けれど――
どうしても、もっと繋がっていたい。