第24章 終わらない熱
普段は舞台の上でしか見られない表情を自分にだけ向けてくれたという事実に、心が熱を帯びていく。
無意識に頬へ手を当てると、指先にじんわりと火照りが伝わった。
タ「……顔が赤いな。」
すぐ隣から落ち着いた声がした。
はっと振り向けば、ソファに腰掛けていたキタニが真っ直ぐこちらを見ていた。
ニュースを見ながら無表情に“捕まってよかったな”と呟いた直後だった。
「えっ……あ、うん。ほんとに……。」
動揺を隠すように言葉を重ねるが、頬の熱は引かない。
むしろ視線を感じてさらに熱が増す。
キタニはテレビから目を外さず、淡々と続けた。
タ「これで少しは安心できるだろ。あんな奴、もう近づけない。」
「……そうだね。」
声が震え、思わず目を伏せた。
捕まってよかったと心から思っている。
それは本当だ。
だが、その安堵に混じって助けてくれた歌い手への甘い気持ちが芽吹いてしまっていることをキタニには絶対に知られたくなかった。
それなのに、頬の赤みは隠せない。
キタニの視線がじわじわと鋭くなる。
タ「……お前さ。」
低い声に、女は息を飲んだ。
タ「なんで顔、そんなに赤いの。」
鋭さの裏に含まれるのは、疑念だった。
彼の声色はいつも通り落ち着いているはずなのに、空気の温度が急に変わった気がして背筋が冷たくなる。
「べ、別に……ただ、ニュース見て安心したから。ホッとしたっていうか……。」
必死に言い訳を並べるが、自分でも説得力がないと分かっていた。
彼に隠し事をすることが、どれほど難しいか。
今までだって何度も痛感してきた。
キタニはしばし女を観察するように視線を向け、それから深くソファに背を預けた。
タ「……まあ良い。とにかく、この件はこれで終わった。」
そう言いつつも彼の目はまだどこか探るようで、安心した表情ではなかった。
その目を直視できず、女は手元のマグカップをぎゅっと握りしめた。
頭の中では、助けてくれた歌い手の声と笑顔が何度も蘇る。