第24章 終わらない熱
「えっ……どうして、ここに……。」
声が震える。
男はにやりと口角を上げた。
バ「心配で、待ってたんだよ。最近冷たいからさ。俺のこと、忘れてないだろ?」
耳元に吐きかけられる声が生臭く、体が総毛立つ。
腕を振り払おうとしても、彼の力は強くてびくともしない。
無理やり路地裏へと押し込まれ、背中が冷たいコンクリートにぶつかった。
「や、やめて……。」
バ「大丈夫。ちょっと話すだけだから。なあ、前みたいにさ……。」
指先が頬をなぞる。
ぞわりとした嫌悪に体を硬直させるが、声を出せば人が気づくかもしれないと喉が震える。
しかしこの暗い路地裏では、誰もすぐには気づかないだろう。
心臓が早鐘を打ち、視界が揺れる。
「……っ、やだ……。」
押し殺した声を漏らしたその時だった。
歌「――何してるんですか。」
鋭く、よく通る声が路地裏に響いた。
振り向くと、入口に立っていたのは――
あの、大ファンの歌い手だった。
ステージで見せる華やかな笑顔ではなく、険しく真剣な表情でこちらを見ている。
バ「誰だよ、あんた。」
バンドマンが苛立ったように吐き捨てる。
歌「彼女、嫌がってるじゃないですか。すぐに離してください。」
歌い手の冷たい声が、普段からは想像もつかないほど力強く響く。
その瞬間、張りつめていた恐怖が少し和らぎ女の目に涙がにじんだ。
バ「ちが……俺たち、友達だから。こういう冗談も通じるんだよ。」
バンドマンは余裕を装って笑うが、その目には明らかな焦りが見えていた。
歌「友達なら、こんな時間にこんな場所で無理やり腕を掴まないでしょう。」