第23章 絡み合う影
ホテルのカードキーを翳して、静まり返った廊下から自室の扉を押し開けた瞬間――
彼女は思わず息を呑んだ。
「……えっ。」
室内のソファに腰かけ、ラフな格好でスマホをいじっていたのはキタニだった。
まるで自分の部屋のように自然に座っているその姿に、酔いの回った頭が一瞬で覚める。
「な、なんでここに……?」
驚きと戸惑いが入り混じった声。
彼は視線を上げ、特に気負った様子もなく肩をすくめた。
タ「どうしたもこうしたも、自分のツアーも近くでやってるんだよ。ちょうど場所も同じホテルだったし。マネージャーに頼んで、鍵を借りた。」
「鍵を……?」
混乱気味に繰り返すと、彼は軽く笑った。
タ「心配だったからさ。今日は打ち上げだろ? お前、酒が入るとどうなるか……俺も知ってる。」
その言葉に、胸がきゅっと締めつけられる。
――そうだ。
酔うとかやは自制が効かなくなる。
だから、あの人にあんな言葉を言ってしまった。
思い出した瞬間、顔がまた熱くなる。
けれど同時に酔いと高揚感が理性を押し流し、感情があふれ出した。
部屋にいるキタニの姿に、妙な安心を覚えてしまったのだ。
「……タツヤ。」
彼の名前を呼ぶと、自然と身体が動いていた。
小走りに近づき、彼の胸に飛び込む。
しっかりした体に顔を埋めると、アルコールで火照った身体がさらに熱を帯びた。
タ「ちょ、ちょっと……どうした、急に。」
不意を突かれた彼が驚いた声を出す。
それでも彼女は離れず、しがみついたまま
「ん……。」
と甘えるような声を漏らす。
酔いのせいだと自分でもわかっていた。
でも抑えられない。
心臓がばくばくと高鳴り、目の奥が潤んでくる。
先ほどのエレベーターでの出来事が頭から離れない。
けれど、それを打ち消すように目の前の温もりに縋っていた。