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上書きしちゃった

第23章 絡み合う影


抑えようとしても抑えきれない。

酔いのせいだけではない。

胸に芽生えた感情が止められないのだ。

「……好き、かもしれない。」

小さな声。

でも、エレベーター内では十分すぎるほどはっきり響いた。

歌い手の身体が一瞬固まる。

驚きが表情に浮かび、視線が彼女に向けられた。

その沈黙が永遠にも感じられ、頬がさらに赤くなる。

「ご、ごめん……酔ってるから……変なこと言ったかも……。」

慌てて取り繕う言葉を口にしようとしたが、声が震えてしまう。

彼はしばらく黙っていた。

しかし次の瞬間、小さな笑みを浮かべて言った。

歌「……ありがとう。」

低い声。

照明の明かりに照らされた横顔は真剣で、優しかった。

歌「すぐには答えは出せないけど……同じ気持ちかもしれない。」

その言葉に、胸が大きく震えた。

血が逆流するような熱が全身を駆け巡り、視界が滲む。

彼の声は温かく、確かに耳に残った。

エレベーターが静かに上昇する間、2人の間に沈黙が流れる。

だがその沈黙は苦しくなく、むしろ甘く張り詰めていた。

心臓の鼓動が響き合うように、彼の体温が近くにあることを実感する。

触れた肩越しに、互いの呼吸が重なる。

やがて“チン”と軽快な音を立て、エレベーターは彼女の階に到着した。

扉が開き、冷たい廊下の空気が流れ込む。

歌「……着いたね。」

彼の声で現実に引き戻される。

「うん……ありがとう。」

小さな声でそう答え、足を踏み出す。

振り返ると、彼はまだ扉の前に立ってこちらを見ていた。

歌「じゃあ、おやすみ。」

その言葉に微笑みを返す。

でも、胸の奥はまだ熱くざわめいていた。

――同じ気持ちかもしれない。

その言葉だけを抱きしめ、彼女は廊下を歩いていった。
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