第23章 絡み合う影
「なんか……すごく、安心する……。」
掠れた声でそう漏らすと、キタニの表情に僅かな陰りが走った。
タ「……安心って……それは良いけど。」
腕を回されるまま抱き寄せられるが、その声は複雑だった。
彼女の髪を撫でながら、彼の瞳がわずかに探るように揺れる。
――いつもと違う。
彼女の纏う空気、体温、甘え方。
打ち上げ帰りで酔っているにしても、どこか違和感がある。
キタニは胸の奥に疑問を抱いた。
なぜ今日はこんなに……
高揚しているんだ?
まるで何かに背中を押されているような、抑えきれない衝動を抱えているように見える。
タ「……お前、本当に大丈夫か?」
小さな声でそう問いかける。
「だいじょうぶ……だよ。だって、タツヤがここにいてくれるし……。」
顔を上げて笑みを浮かべる彼女の頬は、赤く染まっている。
酔いだけではない熱がそこに見え隠れしているように思えた。
抱きつく腕は強く、彼を離さない。
その必死さが、逆に胸に引っ掛かる。
まるで――
何かから逃れるように、自分にしがみついているようだ。
タ「……ほんとに変だな、今日のお前。」
ぽつりと呟くと、彼女は
「えへへ。」
と笑い声を漏らし、さらに身体を寄せてきた。
頬に触れる彼女の体温は高く、吐息は甘い。
それは決して嫌ではなく、むしろ心を揺さぶる。
けれど、同時にキタニの心には小さな棘のような違和感が残り続けた。